分子基礎理論第三研究部門
平 田 文 男(教授) (1995 年 10 月 16 日着任)
A -1)専門領域:理論化学、溶液化学
A -2)研究課題:
a) 溶液内分子の電子状態に対する溶媒効果と化学反応の理論 b)溶液中の集団的密度揺らぎと非平衡化学過程
c) 生体高分子の溶媒和構造の安定性に関する研究 d)界面における液体の統計力学
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) 溶液内分子の電子状態に対する溶媒効果と化学反応の理論
a1) 巨大分子の静電ポテンシャル計算の高速化:巨大分子の静電ポテンシャル計算の高速化:近年,計算機及び計算手法 の発展とともに生体分子などの巨大分子の計算が脚光を浴びている。我々のグループでは 3D -R IS M を用いてタン パク質の計算を行い,すでに幾つかの成功をあげている。この 3D -R IS M とab initioを組み合わせた3D-RISM-SCF を 本グループですでに提案しているが小さい分子に対して適用されたのみであった。これは 3D -R IS M では溶質分子 の造る静電ポテンシャルの計算コストが高いため,溶質分子が大きくなると計算が困難になるからである。そこで, 新たに静電ポテンシャルの算出法を提案した。本方法では空間を溶質分子からの距離に応じて3つの領域に分割す る。溶質原子の内部にあたる領域では,ポテンシャル無限大と近似することで容易に計算コストを省くことが出来 る。また,溶質から十分遠い領域では部分電荷を用い計算コストを節約し,近距離では溶質の波動関数から静電ポテ ンシャルを直に評価することで精度を保った。実際に本方法を用い,生体分子の例として Met-E nkephalin の計算を 行い計算時間を激減させながら,精度を保てることを示した。[J. Comput. Chem. 27, 453 (2006) に既報]
a2) 流体相(気,液)全領域における水の自己解離定数の決定:近年,平田グループで提案したK ovalenko-Hirata(K H)closure によりこれまでは難しかった密度溶媒系の計算が可能になった。そこで,R ISM-SC F /K Hにより水の自己イオン化反 応(2H2O ⇔ H3O+ + OH–)について超臨界領域を含む幅広い温度( 300 ∼ 800 K )及び密度( 0.025 ∼ 1.0 g/cm3)範囲で の計算を網羅的に行った。自己解離定数,各分子種の双極子モーメント,分子構造等の温度・密度依存性において,実 験値及びシミュレーションの結果と定性的な一致を得た。このように理論的に定性的な予測が出来ると言うことは, 産業分野における研究開発に大きな寄与を与えることが出来る。これは,R ISM-SC F は実験と比較して圧倒的に時間 的・人的コストが低いからである。現在は超高速計算機網形成プロジェクト(NA R E GI)の一環として多数の企業と R IS M-S C F を用い共同研究を行っている。[J. Phys. Chem. B に印刷中]
a3) 内部自由度をもつ分子からなる液体系の統計力学:ブタンやジクロルエタンなどのようにいくつかの構造異性体を 持つ系でそのエネルギー差がそれほど大きくない場合,気相における平均構造と液体系におけるそれとは必ずしも 同じではない。また,液体系においては温度や圧力によってその構造の比率が変化するため,分光学をはじめとする 実験の重要な研究対象のひとつとされて来た。(わが国でも Mizushima らによる先駆的な研究がある。)このような 液体系に対する理論的な取り扱いはこれまでもなされてきたが,それは多くの場合,液体系を構造異性体の混合系
とみなして,液体混合系の取り扱いを適用するか,または2面角などの構造パラメタ(オーダーパラメタ)を連続的 に変化させながら自由エネルギー計算を行う手法に限られていた。以前に,Y oshida-Hirata-Munakataは分子内と分子 間の分布関数を同時に決定するR ISM理論の定式化を提案しているが,本研究ではこの理論をブタンおよびジクロ ルエタンの系に適用し,シミュレーションおよび実験と比較した。その結果,ゴーシュとトランスの存在比に関して, それらの実験結果と良好な一致を得た。[Chem. Phys. Lett. 420, 135 (2006) に既報]
b) 生体高分子の溶媒和構造の安定性に関する研究
b1) 蛋白質の部分モル容積と圧力変性:部分モル容積は化学平衡や反応速度の圧力に対する応答を決定する重要な熱力 学量である。特に,蛋白質の部分モル容積はその力学的構造安定性を反映する重要な物理量としてE dsalやK auzmann などの先駆的な研究以来,生物物理の中心課題のひとつとなってきた。しかしながら,それを第一原理から理論的に 求 め る 試 み は 皆 無 で あ った 。わ れ わ れ は ,自 ら 開 発 した 二 つ の方 法 論 ,す な わ ち ,3 次 元 R I S M 理 論 と si te- si te K irkwood-B uff(S S K B )理論,に基づき蛋白質の部分モル容積を統計力学的に求めることに初めて成功し,昨年度の
「リポート」で報告した。本年度はこの計算をより多くの蛋白質に敷衍するとともに,蛋白質構造の力学的安定性に 関する新しい解析を行ったので以下に報告する。
圧力をかけた場合,蛋白質の構造は部分モル容積を小さくする方向に変化する(ル・シャテリエ則)。したがって,も し,二つの異なる圧力下での蛋白質の立体構造が知られていれば,高圧での構造に対応する部分モル容積は定圧で のそれに比べて小さくなければならない。このこと自身はル・シャテリエ則のひとつであり単純な熱力学法則であ るが,これまでこの法則を生体分子で理論的に確認した例はない。その理由のひとつは上に述べたように蛋白質の 構造から部分モル容積を求める理論的方法が存在しなかったことによる。次に,高圧下での蛋白質の構造も決定さ れていなかった。最近,A kasakaと彼の共同研究者によって,二つの圧力下でのリゾチームのX線構造が決定された。 もし,その二つの構造に対する部分モル容積を同じ圧力下で決定することができれば,ル・シャテリエ則は分子レベ ルで証明される。我々は A kasakaらによって決定されたリゾチームの構造に対する部分モル容積を3次元 R IS M 理 論によって求めた。その結果,高圧条件に対応する構造が低圧下のそれに比べて約 120 cc/mol だけ小さな部分モル 容積をもつことを明らかにし,ル・シャテリエ則を分子レベルで証明した。また,さらに詳細な解析の結果,高圧構造 の部分モル容積の減少に最も大きく寄与するのは蛋白質内の空隙(水分子が入り込むことができない隙間)である ことが明らかになった。このような解析を実験的に行うことは不可能である。何故なら,高圧下で決定された蛋白質 の構造は低圧条件下では不安定な構造であり,そのような構造の部分モル容積を実験的に求めることはできないか らである。[J. Phys. Chem. B 109, (2005) に既報]
b2) 蛋白質内部の空孔に閉じ込められた水分子を理論で「検出」:水はいわゆる溶媒として生体分子の構造安定性を決定 する本質的因子であるばかりでなく,蛋白質内部の空孔や反応ポケット中にも存在し,その機能をコントロールす る上で重要な役割を演じている。これまで実験的にはX線,中性子,NMR をはじめとして蛋白質内部の水分子を検 出する様々な試みが行われてきた。しかし,理論的に蛋白質内部の水分子を「検出」した報告はない。本年度,われわ れは蛋白質の水和に関して3次元R ISM理論による興味深い計算結果を得た。蛋白質内に閉じ込められた水分子の 分布関数が求まったのである。鶏卵の白身から取り出したリゾチームの天然構造(X線構造)を水に浸し,その系の 3次元R IS M方程式を解いて水分子の分布関数を求めたところ,蛋白質内部の空隙に4個の水分子が存在すること を示す顕著なピークを見出した。蛋白質内部の空隙は極めてヘテロな環境にあり,統計力学が最も不得意とする問 題である。このような問題に対する解が得られたこと自身,液体の統計力学の新しい一歩を意味する。しかしながら, この結果の意味するところはそれだけではない。酵素反応をはじめとする生体系の様々な機能は生体分子による基
質やリガンドの「認識」(分子認識)を本質的プロセスとして必ず含んでいるが,今回の結果はこの分子認識プロセス を解明する上での理論的な橋頭堡を築いたことを意味する。例えば,蛋白質による薬剤分子の認識を考えよう。薬剤 分子を溶質として溶かし込んだ水溶液中の蛋白質の溶媒和構造を3次元R ISMより求める問題は純水中のそれの単 なる一般化であり,本質的困難はない。この計算によって得られた蛋白質内部の活性(認識)部位における水と薬剤 分子の分布関数を解析すれば,それらの分子のどちらが蛋白質と強く結合しているかが解明できるはずである。[J. Am. Chem. Soc. (Commun.) 127, 15334 (2005) に既報]
c) 界面における液体の統計力学
c1) 気液界面の構造と臨界性に関する統計力学研究:気液界面における密度はちょうど臨界点におけるそれと同様に巨 視的なスケールの揺らぎを示す。この揺らぎはcapillary-waveとして知られており,中性子散乱やレーザー分光の標 的となっている。一方,理論的に気液界面の構造を分子レベルで特徴づける研究はこれまでほとんど行われていな い。その理由のひとつは気液界面では平均密度が場所によって大きく変わる(気体密度から液体密度まで)ことにあ る。もうひとつの理由はそれが巨視的なスケールで揺らぐからである。後者は密度の相関距離が発散することを意 味する。これらはいずれも従来の液体統計力学において未解決になっている問題である。
われわれは昨年度の「リポート」において,これらの問題を一挙に解決する理論的枠組みを提案した。それは IOZ 方 程式(不均一液体のOrnstein-Z ernike積分方程式),L MB W 方程式(一体密度関数を2体相関関数と関連づける方程式) およびK H-closureと連立させて解法するというもので,これにより気液界面の密度プロフィールとそこでの2体相 関関数を求めることに初めて成功した。そして,気液界面の2体相関関数がちょうど臨界点におけるそれと同様の 振る舞いを示すことを報告した。[Chem. Phys. Lett. 395, 1 (2004)]
本研究ではD ue-Henderson-V erlet によって提案されたclosureを使い,気液界面における臨界性を調べた。その結果, 気液相の密度差,揺らぎの相関距離および表面張力に関る臨界指数に対して,それぞれ,β = 0.4,ν = 0.65,µ = 1.28 の値を得た。これらの値は平均場近似から得られる値と異なっており,実験や分子シミュレーションによって決定 された値に近くなっている。これらの結果は IOZ 方程式を使うことによって初めて得られたものであり,系の不均 一性をあらわに考慮することが本質的であることを示している。[Phys. Chem. Chem. Phys. 7, 4132 (2005) に既報] c2) 液液界面の分子論:水と油の境界のようにふたつの液体が接触する領域(液液界面)は新しい化学反応の場として多
くの注目を集めている。しかしながら,分子レベルでの液液界面の構造については実験的にも理論的にも未知の部 分が多い。例えば,界面における各成分の平均濃度(密度)プロフィールは階段状の滑らかなカーブを描いて変化し ていくのか,あるいは揺らぎを伴っているのだろうか? もし,揺らぎを伴っているとしたら,一体,どのようなス ケールで揺らいでいるのだろうか? これらに対する理論的な検討は皆無といっても過言ではない。その理由はこ の問題が従来の液体統計力学の枠組みを大きく超える難しい問題だからである。この種の問題の難しさは系が不均 一(平均濃度が一定ではない)だということにある。このため,通常の液体論ではいわば「入力」として与える平均濃 度(密度)は位置の関数として求めるべき「未知数」となる。
本研究においてわれわれはヘキサンとメタノールの系にたいして不均一 R IS M と S S L MB W( site-site L ovett-Mou- B uff-W ertheim)理論の連立方程式をある近似のもとに解法し,その液液界面の構造を初めて理論的に明らかにした。 その結果で特筆すべきことは,液液界面の濃度プロフィールが通常の教科書にあるような単調な階段状の関数では なく,ナノメートルスケールの周期をもつ振動型の構造をもっていることである。このような振動型の濃度プロ フィールは実験的には未だ検出されていない。[Phys. Chem. Chem. Phys. 7, 1785 (2005) に既報]
B -1) 学術論文
T. IMAI and F. HIRATA, “Hydrophobic Effects on Partial Molar Volume,” J. Chem. Phys. 122, 94509 (2005).
A. KOBRYN, T. YAMAGUCHI and F. HIRATA, “Pressure Dependence of Diffusion and Orientational Relaxation Time for Acetonitrile and Methanol in Water: RISM/Mode-Coupling Study,” J. Mol. Liq. 119, 7–13 (2005).
K. NISHIYAMA, T. YAMAGUCHI, F. HIRATA and T. OKADA, “Solvation Dynamics in Water Investigated by RISM/ Mode-Coupling Theory,” J. Mol. Liq. 119, 63–66 (2005).
T. IMAI, A. KOVALENKO and F. HIRATA, “Partial Molar Volume of Proteins Studied by the Three-Dimensional Reference Interaction Site Model Theory,” J. Phys. Chem. B 109, 6658–6665 (2005).
A. KOBRYN, T. YAMAGUCHI and F. HIRATA, “Site-Site Memory Equation Approach in Study of Density/Pressure Dependence of Translational Diffusion Coefficient and Rotational Relaxation Time of Polar Molecular Solutions: Acetonitrile in Water, Methanol in Water, and Methanol in Acetonitrile,” J. Chem. Phys. 122, 184511–184524 (2005).
A. KOVALENKO and F. HIRATA, “A Molecular Theory of Liquid Interface,” Phys. Chem. Chem. Phys. 7, 1785–1793 (2005).
T. IMAI, T. TAKEKIYO, A. KOVALENKO, F. HIRATA, M. KATO and Y. TANIGUCHI, “Theoretical Study of Vomule Changes Associated with the Helix-Coil Transition of an Alanine-rich Peptide in Aqueous Solutions,” Bioplymers 79, 97–105 (2005).
T. IMAI, R. HIRAOKA, A. KOVALENKO and F. HIRATA, “Water Molecules in a Protein Cavity Detected by a Statistical- Mechanical Theory,” J. Am. Chem. Soc. (Communication) 127, 15334–15335 (2005).
A. KOVALENKO and F. HIRATA, “A Molecular Theory of Liquid Interfaces,” Phys. Chem. Chem. Phys. 7, 1785–1793 (2005).
I. OMELYAN, F. HIRATA and A. KOVALENKO, “Criticality of a Liquid-Vapor Interface from an Inhomogeneous Integral Equation Theory,” Phys. Chem. Chem. Phys. 7, 4132–4137 (2005).
S. -H. CHONG, A. J. MORENO, F. SCIORTINO and W. KOB, “Evidence for the Weak Steric Hindrance Scenario in the Supercooled-State Reorientational Dynamics,” Phys. Rev. Lett. 94, 215701 (2005).
A. J. MORENO, S. -H. CHONG, W. KOB and F. SCIORTINO, “Dynamic Arrest in a Liquid of Symmetric Dumbbells: Reorientational Hopping for Small Molecular Elongations,” J. Chem. Phys. 123, 204505 (2005).
B -3) 総説、著書
F. HIRATA, “Molecular Theory of Solvation,” Kluwer-Springer Academic (2003).
A. KOVALENKO and F. HIRATA, “Interfacial Nanochemistry,” H. Watarai, N. Teramae, and T. Sawada, Eds., Kluwer Academic/Plenum Publishers, Chapter 5 (2005).
平田文男、今井隆志 , 「水と生体分子の理論」, 現代化学 10月号 (2005). 平田文男 , 「ごまめの歯ぎしり」シリーズ , 化学 , 化学同人 , 1月号–12月号 (2005).
B -4) 招待講演
平田文男, 「グリッド環境を使ったナノ分野におけるリアルタイムコラボレーション」, NA R E GIシンポジウム2005, 東京ファッ ションタウン , 2005年 2月 .
T. IMAI, A. KOVALENKO and F. HIRATA, “Partial Molar Volume of Protein Studied by Site-Site Kirkwood-Buff and RISM/3D-RISM Theories,” Hydration and Thermodynamics of Molecular Recognition, Tsakhadzor (Armenia), March 2005.
平田文男, 「水−アルコール混合系の構造、相分離、ダイナミクス」, 赤外放射光が拓く新しい物質・生命科学, 立命館大学
(草津), 2005年 3月 .
F. HIRATA, ”New methodologies in computational nano-science facilitated by the GRID computing environment,” Ist NAREGI International Nanoscience Conference, Nara, June 2005.
平田文男, 「理論化学の現状と課題:蛋白質−水相互作用を中心として」, 九重分光関連夏季セミナー2005「理論化学の現 状と未来」, 九重共同研修所 , 2005年 7月 .
F. HIRATA, ”New methodologies in computational nano-science facilitated by the GRID computing environment,” The International Conference on MENS, NANO, and Smart System, Baff (Canada), July 2005.
F. HIRATA, “Molecular Theory of Fluid-Fluid Interfaces,” Chemistry Department, Rutgers University (U.S.A.), August 2005.
F. HIRATA, “Water Molecules in a Protein Cavity Detected by a Statistical Mechanics Theory,” Mathematics Department, Rutgers University (U.S.A.), August 2005.
平田文男、今井隆志 , 「界面における溶液構造の分子論」, 第96回触媒討論会 , 熊本大学 , 2005年 9月 .
平田文男 , 「ナノ科学の発展と先進シミュレーション」, 次世代スーパーコンピュータとシミュレーションの革新(国立情報学 研究所主催), ホテルラフォーレ東京 , 2005年 9月 .
平田文男、A. KOVALENKO、I. OMELYAN、今井隆志, 「界面における溶液の統計力学」, 第7回近赤研セミナー「液体の 構造スケールと分子間相互作用」, 関西学院大学 , 三田 , 2005年 12月 .
F. HIRATA, T. IMAI and A. KOVALENKO, “Solvation Structure and Thermodynamics of Protein Studied by the 3D- RISM Theory,” Pacifichem’05 Symposium “Interfacial Phenomena at Different Length and Time Scales,” Honolulu (U.S.A.), December 2005.
F. HIRATA, N. YOSHIDA and H. SATO, “Chemical Reactivity and Phase Behavior in Water Studied by the RISM-SCF Theory,” Pacifichem’05 Symposium “The Role of Water in Electron—Driven Processes,” Honolulu (U.S.A.), December 2005.
S. -H. CHONG, “Translational and rotational dynamics in supercooled molecular liquids,” 5th International Discussion Meeting on Relaxations in Complex Systems, Lille (France), July 2005.
B -6) 受賞、表彰
平田文男 , 日本化学会学術賞 (2001). 佐藤啓文 , 日本化学会進歩賞 (2002).
B -7) 学会及び社会的活動 学協会役員、委員
溶液化学研究会運営委員長 (2004- ). 学会誌編集委員
Phys. Chem. Commun., Advisary Board.
Theoretical and Computational Chemistry, 編集委員.
B -10)外部獲得資金(分子研着任後)
重点領域研究(公募), 「電極の原子配列を考慮した電極−溶液界面の統計力学理論」, 平田文男 (1997年 -1999年). 特定領域研究(公募), 「理論的アプローチによる繊維金属を含む生体内化学反応の解明」, 佐藤啓文 (1999年 -2001年). 奨励研究(A ), 「溶液内分子の核磁気共鳴スペクトルに対する非経験的手法に基づく理論の開発」, 佐藤啓文 (1999年-2001 年).
基盤研究(B ), 「化学反応に対する溶媒効果の分子論」, 平田文男 (2000年 -2003年).
特定領域研究(計画), 「統計力学密度汎関数理論に基づく液液界面構造の解明」, A ndriy K ovalenko (2001年 -2004年). 特定領域(計画), 「生体内化学過程の統計力学理論」, 平田文男 (2003年 -2007年).
超高速コンピュータ網形成プロジェクト「ナノサイエンス実証研究」, 平田文男(拠点長) (2003年 -2007年).
若手研究(B ), 「過冷却状態における分子性液体の動的不均一性に関する理論的及び計算機を用いた研究」, 鄭誠虎 (2005 年 -2007年).
C ) 研究活動の課題と展望
当研究グループでは,数年前から,様々な界面における液体の構造と相転移を含む熱力学的挙動を解析する統計力学理 論を構築している。昨年度までに電極−溶液界面,気液界面,液液界面,および炭素細孔界面の問題について理論構築を 行い,界面における溶液の構造を分子レベルで解明して来た。とりわけ,昨年度行った気液・液液界面の研究は不均一な密 度(濃度)分布をもつ流体系の構造を分子レベルで取り扱うことを初めて可能にしたものであり,歴史的な意義を有する。 ところで,液体との界面でもうひとつ重要なものがある。それは生体分子との界面である。この問題に関して,昨年度,極めて
興味深い結果が得られた。すなわち,蛋白質を水に浸して3次元R ISM計算を行ったところ,蛋白質周辺だけではなく,蛋白 質内部の空隙内に閉じ込められた水分子の分布が「観測」されたのである。しかも,その位置はX線で決定されたものとほ ぼ完全に一致していた。この結果は統計力学理論が蛋白質の内部水の位置を決定できたという歴史的な意義を有するだ けではない。それは生体分子が営む様々な機能において本質的なプロセスである「分子認識」に対して,液体の統計力学 が極めて有効であることを意味する。例えば,酵素反応を考えてみよう。酵素反応において基質分子同士やそれらと酵素と の電子のやりとりが重要であることは論をまたない。しかしながら,「電子のやりとり」ができるためには基質分子は酵素の反 応ポケットに取り込まれなければならない。また,反応後には反応生成物が反応ポケットから吐き出されなければならない。し かしながら,これらのプロセスは反応ポケット内に存在する水分子の酵素に対する親和力(自由エネルギー)との競争関係 で行われるのである。すなわち,酵素反応においては酵素(反応ポケット)の基質分子に関する「分子認識」が反応性や反 応速度にとって本質的意味をもつ。今回,水に対して得られた結果は生体分子による基質やリガンドの「分子認識」過程に 容易に一般化することができる。すなわち,溶媒を「水」だけではなく水と基質分子を含む「溶液」に拡張するのである。この 溶液系に対して3次元R IS Mの解析を行う。もし,基質の酵素に対する親和力が水のそれに勝っていれば反応ポケット内に 基質分子の分布を観測するだろう。これは「分子認識」以外の何者でもない。
本研究グループでは,今後,この方法を酵素反応,生体分子によるリガンドの結合,イオンチャネル,など広範な問題に応用 していく計画である。